地域資源を活かすバイオマスエネルギー化技術:発電、熱、燃料化の選択肢とその特徴
はじめに:地域資源をエネルギーへ
持続可能な社会の実現に向け、再生可能エネルギーの導入が全国各地で進められています。その中でも、地域に存在する多様な有機性資源(バイオマス)を活用するバイオエネルギーは、カーボンニュートラルへの貢献に加え、地域の循環型社会の構築や産業振興にもつながる可能性を秘めています。
バイオマスをエネルギーとして利用する方法は一つだけではなく、最終的にどのような「形」のエネルギーとして取り出すかによって、適用される技術が異なります。電気として利用するのか、熱として利用するのか、あるいは自動車などの燃料とするのか、地域の特性やエネルギー需要に応じて最適な技術を選択することが重要です。
この記事では、バイオマス資源をエネルギーとして利用する際の主要な「利用形態」に着目し、それぞれの形態を実現するための代表的な技術の仕組み、適した資源、そして地域での導入を検討する上でのメリット・デメリットを分かりやすく解説します。
バイオマスエネルギーの主な利用形態
バイオマスから得られるエネルギーは、主に以下の三つの形態で利用されます。
- 発電: バイオマスを燃焼させる、ガス化する、あるいは発酵によって得られるガスを利用して電気を生成します。比較的大きなエネルギーを広域に供給するのに適しています。
- 熱利用: バイオマスを燃焼させたり、ガス化して得られるガスを燃焼させたりして、暖房や給湯、乾燥などの熱源として直接利用します。エネルギー変換ロスが少なく、効率的な利用が可能です。
- 燃料化: バイオマスを固体、液体、あるいはガスの燃料へと変換し、輸送や貯蔵を容易にしたり、既存の燃料インフラ(自動車、工場など)で利用可能にしたりします。
これらの利用形態は、地域の資源賦存量、エネルギー需要のパターン、既存のインフラ状況、導入規模など、様々な要因を考慮して選択されます。
利用形態別のエネルギー化技術と特徴
1. 発電
バイオマス発電は、地域で発生する様々なバイオマス(木質、作物残渣、食品廃棄物、家畜排泄物、下水汚泥など)を燃料として電気を生み出す技術です。
- 仕組みの概要:
- 直接燃焼発電: ボイラーでバイオマスを燃やし、発生する高温高圧の蒸気でタービンを回し、発電機を動かします。比較的確立された技術です。
- ガス化発電: バイオマスを部分的に燃焼させ、可燃性のガス(合成ガス)を取り出し、このガスを燃料としてガスタービンやガスエンジンで発電します。多様なバイオマスに対応でき、効率向上が期待される技術です。
- バイオガス発電: 食品廃棄物や家畜排泄物などを微生物の力で分解(嫌気性発酵)し、発生するバイオガス(主成分はメタン)を燃料としてガスエンジンや燃料電池で発電します。有機性廃棄物の処理と同時にエネルギー回収が可能です。
- (図解イメージ:バイオガス発電のプロセスは、[原料投入] → [発酵槽] → [バイオガス生成] → [ガス精製(必要に応じて)] → [ガスエンジン・発電機] → [発電・売電/自家消費] という流れで図示されると分かりやすいでしょう。)
- 適した資源: 木質、農業残渣、食品廃棄物、家畜排泄物、下水汚泥など、幅広い有機性資源が対象となり得ます。技術によって適した資源の種類や性状が異なります。
- 地域導入におけるメリット・デメリット:
- メリット: 地域での電力自給、売電による収入、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)/固定価格入札制度(FIP)の対象となる場合がある。
- デメリット: 安定的な燃料供給体制の構築が必要、施設の初期投資や運用コスト、比較的大規模な施設が必要となる場合が多い(特に直接燃焼)、燃料の性状によっては前処理が必要。熱も発生しますが、発電が主目的の場合、排熱の有効利用が課題となることもあります(熱電併給システムについては別の機会に解説します)。
2. 熱利用
バイオマス熱利用は、バイオマスを燃焼させることによって得られる熱を、暖房、給湯、乾燥、農業ハウス、温水プール、地域冷暖房、産業プロセスなどで直接利用する技術です。
- 仕組みの概要:
- 直接燃焼ボイラー: バイオマス(チップ、ペレットなど)を燃焼させ、水や空気を温めます。温められた媒体を熱が必要な場所に供給します。小規模な家庭用から大規模な地域供給用まで様々なスケールがあります。
- ガス化ボイラー: バイオマスをガス化し、得られたガスを燃焼させて熱を得ます。燃焼制御が容易で、クリーンな燃焼が可能です。
- 適した資源: 主に木質バイオマス(林地残材、製材端材など)、農業残渣(もみ殻、わらなど)が利用されます。燃料の形状(チップ、ペレットなど)を揃えるための前処理が重要になることがあります。
- 地域導入におけるメリット・デメリット:
- メリット: エネルギー変換効率が高い、化石燃料使用量削減、地域のエネルギーコスト低減、小規模分散型のシステム構築が可能、地域内の熱需要と結びつきやすい。
- デメリット: 熱は電気のように遠くまで効率的に送れないため、熱需要地と施設を近接させる必要がある、燃料供給エリアが限定される、燃料の保管場所が必要。
3. 燃料化
バイオマスを、輸送や貯蔵、あるいは既存の設備での利用に適した燃料の形に変換する技術です。固体、液体、ガスの形態があります。
- 固体燃料化 (ペレット、チップ、ブリケットなど)
- 仕組みの概要: 木材チップや農業残渣などを破砕、乾燥、成形(ペレット化など)して、密度が高く均一な形状の燃料にします。
- (図解イメージ:木質バイオマスの固体燃料化プロセスは、[原木/端材] → [破砕/チップ化] → [乾燥] → [破砕/粉砕] → [成形(ペレット/ブリケット)] → [冷却] → [製品] という工程が考えられます。)
- 適した資源: 林地残材、製材端材、農業残渣(わら、もみ殻など)。
- メリット・デメリット:
- メリット: 輸送・貯蔵が容易、燃焼時の取り扱いが容易、品質の均一化が可能。
- デメリット: 成形のためのエネルギー消費、製造コストがかかる、原料の調達コスト。
- 液体燃料化 (バイオエタノール、BDF)
- 仕組みの概要:
- バイオエタノール: サトウキビやトウモロコシ、木質セルロースなどを発酵させることでエタノールを製造します。
- BDF (Bio Diesel Fuel): 廃食用油や植物油などを化学反応(エステル交換反応)させて軽油の代替となる燃料を製造します。
- 適した資源:
- バイオエタノール: 糖質・デンプン質資源(サトウキビ、トウモロコシ、米など)、セルロース系資源(木材、稲わらなど)。
- BDF: 植物油、廃食用油、動物性油脂など。
- メリット・デメリット:
- メリット: 既存の石油燃料インフラ(自動車、給油所など)の一部を利用可能、輸送・貯蔵が容易。
- デメリット: 原料の競合(食料との競合など)、製造コスト、大規模な製造設備が必要な場合が多い。
- 仕組みの概要:
- ガス燃料化 (バイオガス)
- 前述のバイオガス発電で生成されるバイオガスを、発電だけでなく都市ガス導管への注入や自動車燃料(バイオCNG/LNG)としても利用する技術です。メタン濃度を高める精製プロセスが必要となります。
- 適した資源: 有機性排水、食品廃棄物、家畜排泄物、下水汚泥など。
- メリット・デメリット:
- メリット: 分散型でのエネルギー供給、多様な用途(発電、熱、燃料)、副産物(消化液)の肥料利用可能性。
- デメリット: ガス精製設備のコスト、硫化水素など不純物の除去が必要、ガス漏洩対策、季節や原料による発生量の変動。
地域資源の種類から見たエネルギー利用形態の適性
どのバイオマス資源が、どのエネルギー利用形態に適しているかは、資源の性状や賦存量、集荷のしやすさなどによって異なります。一般的な傾向は以下の通りです。
| 資源の種類 | 主なエネルギー化技術 | 主なエネルギー利用形態 | 地域での検討における視点 | | :--------------------- | :-------------------------- | :--------------------- | :---------------------------------------------------------- | | 木質バイオマス | 燃焼、ガス化、固体燃料化 | 発電、熱、固体燃料 | 森林資源量、集荷・運搬コスト、製材所などからの端材の有無 | | 農業残渣 | 燃焼、ガス化、固体燃料化 | 発電、熱、固体燃料 | 発生量、年間変動、乾燥度、異物混入、集荷の範囲とコスト | | 家畜排泄物 | 嫌気性発酵 | バイオガス(発電、熱、燃料) | 畜産農家の数と規模、集約度、消化液の利用方法 | | 食品廃棄物 | 嫌気性発酵 | バイオガス(発電、熱、燃料) | 発生事業所(飲食店、工場など)、集荷システム、含水率 | | 下水汚泥 | 嫌気性発酵、燃焼 | バイオガス(発電、熱)、熱 | 下水処理場の規模、消化槽の有無、処理場周辺の熱需要 | | 廃食用油/植物油 | 油脂変換 | 液体燃料(BDF) | 発生量、回収システム、品質管理 | | 糖質・デンプン質 | 発酵 | 液体燃料(バイオエタノール) | 耕作面積、収量、食料との競合、既存産業との連携 |
地域のバイオマス資源を最大限に活用するためには、単一の技術だけでなく、複数の技術や利用形態を組み合わせる(例:発電の排熱を周辺施設で利用する熱電併給、バイオガスプラントの消化液を農地に還元するなど)ことも有効です。
関連する政策・支援
バイオエネルギー導入を促進するため、国や地方自治体は様々な政策や支援措置を設けています。電気を対象とするFIT/FIP制度は広く知られていますが、熱利用や燃料化に対する補助金、事業化支援、技術開発支援なども存在します。
これらの政策は、導入コストの負担軽減や事業の安定化に貢献しますが、内容や要件は変更されることがあります。最新の情報は、関係省庁(経済産業省、環境省、農林水産省など)や地方自治体のウェブサイトで確認することが重要です。
まとめ:地域に最適なエネルギー化技術の選択に向けて
バイオマスは多様な地域資源であり、発電、熱利用、燃料化といった様々な形でエネルギーとして活用することが可能です。それぞれの利用形態に対応する技術には異なる仕組みや特徴があり、適した資源の種類や地域での導入メリット・デメリットも異なります。
地域のバイオマス資源をエネルギーとして活用する計画を策定するにあたっては、単に技術の優劣を比較するだけでなく、その地域で利用可能なバイオマス資源の種類と量、地域のエネルギー需要(電気、熱、燃料のバランス)、既存のインフラ、事業の経済性、そして地域住民の理解や協力といった要素を総合的に考慮し、最も地域に適した技術と利用形態を選択することが重要となります。
この記事が、地域のバイオエネルギー導入を検討される皆様にとって、技術の選択肢を理解し、具体的な計画策定の第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。