バイオエネルギー技術解説

バイオマスの熱分解・ガス化技術:多様な地域資源を活用する可能性

Tags: バイオエネルギー, バイオマス, 熱分解, ガス化, 地域資源活用

はじめに:多様なバイオマス活用の可能性を広げる技術

地域には、農業残渣、林地残材、食品廃棄物、家畜排せつ物など、様々な種類のバイオマス資源が存在します。これらの資源を単に廃棄するのではなく、エネルギーとして有効活用することは、地域の循環型社会構築や脱炭素化に貢献する重要な取り組みです。バイオエネルギー技術にはいくつかの種類がありますが、特に「熱分解」や「ガス化」といった技術は、幅広い種類のバイオマスを、熱や電気、さらには燃料や化学品原料といった多様な形態のエネルギーに変換できる可能性を持っています。

本稿では、地方自治体の環境政策担当者の皆様が、地域のバイオマス資源の新たな活用方法を検討する上で役立つよう、バイオマスの熱分解およびガス化技術の基本的な仕組みや特徴、導入のメリットとデメリット、そして導入に向けた検討のポイントについて、入門レベルで解説します。

バイオマスの熱分解技術とは

熱分解(Pyrolysis)とは、酸素がない状態、あるいは酸素の供給を制限した状態でバイオマスを加熱し、分解するプロセスです。主に300℃から800℃程度の温度で行われます。酸素がほとんど存在しないため、燃焼とは異なり、直接火をつけて燃やすのではなく、熱によってバイオマスを構成する有機物を分子レベルで分解します。

このプロセスによって、バイオマスは主に以下の3つの生成物に変わります。

  1. 固体成分(バイオ炭またはチャー): 炭素を多く含む固体です。燃料としての利用のほか、土壌改良材や、吸着材としての利用も研究されています。
  2. 液体成分(バイオオイルまたは熱分解油): 複雑な有機化合物の混合物である黒褐色の液体です。燃焼させて熱や電気を得たり、精製して燃料や化学品原料として利用する可能性が研究されています。
  3. 気体成分(熱分解ガス): 水素、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンなどが含まれる可燃性ガスです。燃焼させて熱や電気を得るのに利用できます。

熱分解の温度や反応時間は、生成物の割合に影響します。比較的低温でゆっくり加熱すると固体成分が多くなり、高温で急速に加熱すると液体成分や気体成分が多くなる傾向があります。

概念図を作成するなら、バイオマス投入口があり、加熱炉の中で「酸素なし・加熱」の条件で処理され、出口から「固体」「液体」「気体」の成分がそれぞれ回収されるイメージになります。

バイオマスガス化技術とは

ガス化(Gasification)は、バイオマスを限定された量の酸素や水蒸気の存在下で加熱し、主に可燃性のガス(生成ガスまたは合成ガス)に変換する技術です。通常、熱分解よりもさらに高温の600℃から1000℃以上で行われます。熱分解で生成した固体や液体、ガスがさらに反応を進めることで、最終的に主成分として一酸化炭素(CO)と水素(H₂)を多く含むガスが得られます。このガスは「合成ガス(Syngas)」とも呼ばれます。

ガス化のプロセスは、おおよそ以下の段階を経て進行します。

  1. 乾燥: バイオマス中の水分が蒸発します。
  2. 熱分解: 酸素の少ない状態で加熱され、ガス、液体、固体に分解されます(上述の熱分解プロセス)。
  3. 酸化: 投入した酸素や水蒸気と、熱分解で生じた一部の成分(特に固体成分である炭素)が反応し、熱を発生させます。この熱がプロセス全体の温度を維持するのに利用されます。
  4. 還元: 高温下で、酸化段階で生じた二酸化炭素(CO₂)や水蒸気(H₂O)と、残りの炭素などが反応し、一酸化炭素(CO)と水素(H₂)を生成します。これが生成ガスの主成分となります。

図示する場合、バイオマスと少量(理論燃焼に必要な量の20〜40%程度)の空気や酸素、または水蒸気を反応炉に投入し、高温で反応させるイメージです。出口からは、主成分が一酸化炭素と水素である「生成ガス」が排出され、ごく少量の灰などが残ります。

得られた生成ガスは、フィルタリングなどの精製処理を施した後、様々な用途に利用できます。

生成ガスの多様な利用方法

バイオマスガス化によって得られる生成ガスは、単に燃焼させて熱や電気を得るだけでなく、多様な用途への展開が可能です。

このように、ガス化技術は、生成物の利用方法という点で非常に柔軟性が高く、地域のニーズや既存インフラに合わせて最適な活用方法を選択できる可能性があります。

熱分解・ガス化技術のメリットとデメリット

地域のバイオマス資源活用を検討する上で、熱分解・ガス化技術のメリットとデメリットを理解しておくことが重要です。

メリット

デメリット

導入事例と関連政策の概要

バイオマスの熱分解・ガス化技術は、国内外で様々な規模のプラントが稼働しています。例えば、木質バイオマスを原料とした発電利用や、農業残渣等を利用した熱供給など、地域資源の特性に応じた事例が見られます。小規模なものでは、地域の木材加工所から出る端材を燃料として、事業所内の熱や電気を賄う事例などがあります。

日本では、再生可能エネルギーの導入を支援するため、固定価格買取制度(FIT)や固定価格買取制度(FIP)が導入されており、バイオマス発電もその対象となっています。特に、中小規模のバイオマス発電設備に対しては、原料の種類や規模に応じて多様な買取価格が設定されています。熱利用に対する直接的な国の補助金制度は限定的ですが、地方自治体独自の支援策や、エネルギーの地域内利用を促進する国の補助事業などを活用できる場合があります。

地域のバイオマス熱分解・ガス化プラントの導入を検討する際は、こうした国の制度や地方自治体の支援策の情報を収集し、事業計画にどのように組み込めるかを検討することが重要です。

導入検討におけるポイント

地方自治体としてバイオマスの熱分解・ガス化プラント導入を検討する際には、以下の点が重要な検討ポイントとなります。

これらの検討を通じて、地域の特性に最も適した形で、バイオマス熱分解・ガス化技術の導入の可能性を評価していくことになります。

まとめ:地域におけるバイオマス活用の選択肢として

バイオマスの熱分解およびガス化技術は、地域の多様な有機性資源をエネルギーや有用な物質に変換する、非常に可能性のある技術です。燃焼以外の選択肢として、特に幅広い原料に対応できる点や、熱、電気、燃料、化学品原料など多様な生成物を得られる点は、地域の未利用資源を最大限に活用し、エネルギーの地産地消や新たな産業創出に繋げる上で大きな魅力となります。

導入には技術的な検討やコスト、安定運転といった課題もありますが、地域が持つバイオマス資源の種類、量、そしてエネルギー需要の特性に合わせて適切に計画・導入することで、持続可能な地域社会の実現に向けた有効な手段となり得ます。

本稿が、バイオマス熱分解・ガス化技術の基礎を理解し、地域のエネルギー計画や環境政策を検討される上での一助となれば幸いです。