地域に眠る未利用バイオマス:その種類とエネルギー化技術の基礎
地域に眠る未利用バイオマスの可能性を探る
近年、持続可能な社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの導入がますます重要視されています。その中でも、地域に存在する様々な有機性資源を活用するバイオエネルギーは、地域活性化や廃棄物問題の解決にも貢献する可能性を秘めています。
これまでの記事では、木質バイオマスや食品廃棄物、下水汚泥といった比較的イメージしやすい地域資源からのエネルギー化技術について解説してきました。しかし、私たちの身の回りには、まだ十分に活用されていない「未利用」と見なされるバイオマス資源も数多く存在します。
本記事では、これらの地域に眠る未利用バイオマスに焦点を当て、どのような種類があるのか、そして、それらをエネルギーに変えるためにはどのような技術が用いられるのか、その基礎について自治体の環境政策担当者の皆様にご理解いただけるよう、分かりやすく解説します。地域の新たなエネルギー源や資源循環の可能性を検討する一助となれば幸いです。
未利用バイオマスとは何か
「未利用バイオマス」という言葉には明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、これまでエネルギー源や資源として十分に利用されてこなかった様々な生物由来の有機性資源を指します。これらは、その収集や運搬の難しさ、成分の多様性、既存技術との不適合といった理由から、エネルギー利用が進んでいないケースが多く見られます。
具体的な未利用バイオマスの例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 草本系バイオマス: 稲わら、麦わら、もみ殻、米ぬか、刈り草、雑草、特定の種類の作物残渣などです。これらは大量に発生するものの、広範囲に分散していたり、収集に手間がかかったりすることが課題です。
- 畜産系バイオマスの一部: 家畜の排泄物全体はバイオガス化などで利用が進んでいますが、特定の種類の排泄物、敷料(家畜の寝床に敷くわらやおがくずなど)と混ざったもの、あるいは小規模農家での発生分など、十分に活用されていないケースがあります。
- 藻類: 淡水や海水に生息する藻類は、光合成によって有機物を効率的に生産する能力があります。食用や燃料用として研究開発が進められていますが、大規模かつ低コストでの生産・回収技術が確立途上にあります。
- 剪定枝や間伐材の一部: これらは木質バイオマスに分類されますが、林地残材の中でも、特に径が細いものや枝葉の部分、あるいは市街地や農地から発生する剪定枝などは、収集コストが見合わないなどの理由で未利用となる場合があります。
これらの未利用バイオマスは、地域ごとに発生する種類や量が異なり、それぞれの特性に応じたエネルギー化技術の検討が必要となります。
未利用バイオマスをエネルギーに変える技術の基礎
未利用バイオマスをエネルギーに変換する技術は、バイオマスの種類や状態(水分量、成分など)によって異なります。主要な技術としては、以下のようなものが未利用バイオマスの活用に適用される可能性があります。
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バイオガス化 主に水分を多く含む未利用バイオマス(草本系の一部、畜産排泄物、藻類など)に適しています。酸素がない状態(嫌気性)で微生物が有機物を分解し、メタンガスを主成分とするバイオガスを発生させる技術です。
- 基本的な流れ: 未利用バイオマスを投入しやすい形に前処理(破砕、混合など)し、嫌気性発酵槽に入れます。発酵槽内で微生物が有機物を分解し、バイオガスが発生します。発生したバイオガスから硫化水素などを除去して精製し、燃料(熱利用、発電、自動車燃料など)として利用します。発酵後に残った消化液は、肥料などとして利用されることもあります。このプロセスは、概念図を作成するなら、「資源投入 → 前処理 → 嫌気性発酵 → バイオガス生成 → 精製 → エネルギー利用(熱/電気/燃料)」といった流れで図示できます。
- 未利用バイオマスへの適用: 稲わらや刈り草などの草本系バイオマス、畜産排泄物、特定の藻類などを単独または他のバイオマスと混合して処理する研究や実証が進められています。
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熱分解・ガス化 比較的乾燥した未利用バイオマス(草本系、剪定枝など)に適しています。酸素が少ない状況でバイオマスを加熱し、ガスや油、炭などに分解する技術です。特にガス化は、発生したガスを燃料として利用できます。
- 基本的な流れ: 未利用バイオマスを乾燥・破砕などの前処理を行い、熱分解炉またはガス化炉に投入します。炉内で高温かつ酸素が少ない状態で加熱することで、バイオマスが分解され、合成ガス(一酸化炭素、水素、メタンなどの混合ガス)やバイオ油、バイオ炭などが生成されます。合成ガスは燃料として発電などに利用できます。熱分解・ガス化のプロセスを図示するなら、「乾燥・破砕 → 加熱(酸素制御) → 合成ガス/バイオ油/バイオ炭生成 → ガス精製 → エネルギー利用(発電など)」のような流れになります。
- 未利用バイオマスへの適用: 稲わらや麦わらなどの草本系、公園や道路の剪定枝などの活用技術として期待されています。
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直接燃焼 乾燥した未利用バイオマス(刈り草、剪定枝など)をそのまま燃焼させ、熱や蒸気を得る技術です。比較的シンプルな技術ですが、バイオマスの水分量や形状によって効率が大きく変動します。
- 基本的な流れ: 未利用バイオマスを乾燥・破砕などの前処理を行い、燃焼炉で燃やします。発生した熱や蒸気を暖房や給湯、発電などに利用します。灰が残渣として発生します。図示すると、「乾燥・破砕 → 燃焼 → 熱/蒸気発生 → 利用」というシンプルな流れです。
- 未利用バイオマスへの適用: 収集しやすい場所に集められた刈り草や、チップ化された剪定枝などの地域内利用が考えられます。
これらの技術は単独で利用されるだけでなく、複数の技術を組み合わせたり、他の廃棄物処理施設と連携したりすることで、より効率的かつ安定的にエネルギーを供給することも可能です。
地域での未利用バイオマス活用に向けた視点
地域における未利用バイオマスの活用は、新たなエネルギー源の確保だけでなく、地域資源の有効活用、廃棄物の減量化、雇用創出など、様々なメリットをもたらす可能性があります。しかし、その導入にあたっては、いくつかの課題を考慮する必要があります。
- 資源量の把握と安定供給: 地域でどれくらいの種類の未利用バイオマスが、どのくらいの量発生し、年間を通して安定的に収集可能か、正確な把握が必要です。
- 収集・運搬コスト: 広範囲に分散している場合、収集や運搬にかかるコストが経済性の大きな課題となります。効率的な収集システムや中間処理拠点の検討が重要です。
- 前処理技術: 未利用バイオマスは性状が多様なため、それぞれの資源や後段のエネルギー化技術に適した前処理(乾燥、破砕、異物除去など)が必要です。
- 技術の選択と経済性: どのエネルギー化技術が最も適しているか、初期投資や運転維持費を含めた全体的なコスト、得られるエネルギーの価値などを総合的に評価する必要があります。
- 地域合意の形成: 施設の立地や資源の収集方法などについて、地域住民や関係者の理解と協力が不可欠です。
これらの課題を克服するため、国や自治体では、未利用バイオマスの利活用に関する調査研究や、関連施設の整備に対する支援策が講じられています。
未利用バイオマス活用の国内外事例(概要)
国内外では、様々な種類の未利用バイオマスを活用したエネルギー化の取り組みが進められています。
- 稲わらの活用: 東南アジアなど稲作が盛んな地域では、収穫後に大量に発生する稲わらを、地域内の熱源や小規模発電に利用する事例が見られます。日本では、家畜飼料としての利用が多いですが、燃料化の研究や実証も行われています。
- 藻類からの燃料生産: 欧米を中心に、特定の藻類から油を抽出しバイオ燃料として利用したり、残渣をバイオガス化したりする研究開発プロジェクトが進められています。
- 刈り草・剪定枝の活用: 公園や河川敷で発生する刈り草や街路樹の剪定枝を堆肥化するだけでなく、乾燥させて燃料チップとして地域施設の熱源に利用する国内の事例も見られます。
これらの事例は、地域に存在する未利用資源に新たな価値を見出し、エネルギーとして活用する可能性を示唆しています。
まとめ
地域に眠る未利用バイオマスは、多様な種類が存在し、それぞれの特性に応じた様々なエネルギー化技術が適用可能です。これらの資源を適切に活用することは、地域におけるエネルギーの地産地消や資源循環、さらには環境負荷低減に繋がる重要な取り組みです。
未利用バイオマスの活用を検討する際には、まず地域で発生する資源の種類、量、特性を正確に把握することが第一歩となります。その上で、最適なエネルギー化技術を選択し、収集・運搬システムや経済性、地域合意形成といった様々な視点から実現可能性を評価していくことが重要です。
本記事が、地域の未利用バイオマスに目を向け、その活用に向けた計画策定や検討を進める上での基礎知識として、皆様のお役に立てば幸いです。