地域資源から作る固形バイオ燃料:ペレット、チップ、ブリケットの種類と特徴
地域資源活用の選択肢:固形バイオ燃料入門
近年、カーボンニュートラル実現に向けた再生可能エネルギーの導入が各地域で進められています。その中でも、地域に豊富に存在するバイオマス資源を有効活用できるバイオエネルギー技術は、地域経済の活性化や災害時のエネルギー確保といった側面からも注目されています。
バイオエネルギーには、熱、電気、燃料など様々な利用形態がありますが、地域で比較的手軽に導入できる選択肢の一つとして「固形バイオ燃料」があります。これは、木材や農業残渣などのバイオマス資源を乾燥、破砕、圧縮などの工程を経て固形化した燃料です。化石燃料と比較して輸送や貯蔵がしやすく、安定した燃焼が得られることから、地域におけるエネルギー供給源として期待されています。
この記事では、自治体職員の皆様が地域のバイオマス資源活用を検討する際の基礎知識として、主要な固形バイオ燃料の種類、その製造プロセス、特徴、メリット・デメリット、そして地域における具体的な活用方法について解説します。
固形バイオ燃料とは何か
固形バイオ燃料は、植物由来の有機物であるバイオマスを、ボイラーやストーブなどで燃焼させやすいように一定の形状やサイズに加工した燃料です。主なものとして、ペレット、チップ、ブリケットなどがあります。
バイオマス資源は水分が多く、かさばるという特性があります。そのままでは燃焼効率が低く、輸送や保管にもコストがかかります。そこで、乾燥させて水分を減らし、破砕したり圧縮したりすることで、エネルギー密度を高め、ハンドリングを容易にしています。固形化により、燃料としての品質が安定し、燃焼機器での利用に適した状態になります。
主要な固形バイオ燃料の種類とその特徴
地域で主に利用される固形バイオ燃料には、以下のような種類があります。それぞれ原料や製造方法、特徴が異なります。
1. 木質ペレット
- 特徴: 直径数ミリから1センチ程度の円筒形に成形された燃料です。高い密度を持ち、形状が均一なため、自動供給装置を備えたボイラーやストーブでの利用に適しています。品質基準が定められており、安定供給が可能です。
- 原料: 間伐材、製材端材、樹皮、おがくず、住宅解体材など、木質系の未利用バイオマスが主に使用されます。
- 製造プロセス: 原料の収集・破砕 → 乾燥 → 粉砕 → 加圧成形(ペレット化)→ 冷却 → 選別・袋詰めまたはバラ積み。成形時には原料自身の持つリグニンが天然のバインダーとして機能するため、接着剤などは使用しないのが一般的です。
- (製造プロセスの概念図をイメージする場合、以下の流れが考えられます:【原料受入・前処理】→【乾燥】→【粉砕】→【ペレットミル(加圧成形)】→【冷却】→【製品(ペレット)】)
- 用途: 家庭用・業務用ストーブ、小型・中型ボイラーでの暖房・給湯、産業用ボイラー、発電など。
2. 木質チップ
- 特徴: 木材を破砕機(チッパー)で数センチ角程度の木片にした燃料です。ペレットに比べて製造工程が比較的単純で、設備投資が抑えられる場合があります。ただし、形状やサイズが不均一になりやすく、含水率も原料に依存するため、品質のばらつきが出やすい傾向があります。
- 原料: 間伐材、林地残材、製材端材、梱包材、伐採木、街路樹剪定枝など、比較的大径の木材も使用可能です。
- 製造プロセス: 原料の収集・選別 → チッパーによる破砕 → 必要に応じて乾燥・ふるい分け。
- (製造プロセスの概念図をイメージする場合:【原料木材】→【チッパー(破砕)】→【製品(チップ)】※必要に応じて【乾燥】や【ふるい分け】が入る)
- 用途: 大型ボイラーでの熱供給(地域熱供給、工場)、大規模発電所での燃料など。小規模でも一部のボイラーで利用されます。
3. 木質ブリケット
- 特徴: おがくずや木くずなどを加圧・圧縮してブロック状や棒状に成形した燃料です。ペレットよりもサイズが大きく、密度はペレットと同程度かやや低い場合があります。形状は様々です。
- 原料: 主におがくず、かんな屑などの木材加工残材。
- 製造プロセス: 原料の乾燥 → 圧縮成形。高圧で圧縮することで原料を固めます。
- 用途: 暖炉、薪ストーブ、小型ボイラーなど。
これらの木質系固形燃料のほかにも、農業残渣(もみ殻、稲わら、サトウキビバガスなど)を原料としたペレットやブリケット、あるいは炭化処理を行った「バイオコークス」のような固形燃料も存在しますが、地域での普及度や技術確立度合いは木質系燃料が先行しています。
固形バイオ燃料のメリット・デメリット
地域への固形バイオ燃料の導入を検討するにあたり、そのメリットとデメリットを理解しておくことが重要です。
メリット
- 地域資源の有効活用: 地域内に存在する未利用のバイオマス資源(間伐材、農業残渣など)をエネルギー源として活用できます。これにより、資源の循環利用が促進され、廃棄物削減にもつながります。
- エネルギーの地産地消: 地域内で燃料を生産・消費することで、エネルギーの輸送コストを削減し、エネルギー自給率の向上に貢献できます。
- カーボンニュートラル(原則): 植物の成長過程で吸収したCO2を燃焼時に排出するため、大気中のCO2濃度を増加させない「カーボンニュートラル」と見なされます(ただし、原料の収集、運搬、製造プロセスでのエネルギー消費や土地利用の変化による排出も考慮が必要です)。
- 地域経済への貢献: 原料の収集・運搬、製造、販売、燃焼機器の設置・メンテナンスなど、地域内で新たな産業や雇用を生み出す可能性があります。
- 価格の安定性: 化石燃料の価格変動に比べて、比較的価格が安定しやすい傾向があります。
デメリット
- 原料の収集・運搬コスト: 地域内の分散した原料を集め、工場や需要地まで運ぶためのコストや労力が必要です。特に林地残材などは集材が課題となる場合があります。
- 製造コスト: 特にペレットは、乾燥や成形にエネルギーと設備が必要なため、製造コストがかかります。
- 灰の発生: 燃焼後に灰が発生するため、その処理が必要です。灰は肥料として活用できる場合もありますが、適切な処理体制が求められます。
- 初期投資: 固形燃料を燃焼させるためのボイラーやストーブは、化石燃料用の機器に比べて初期投資が高い場合があります。
- 品質のばらつき: 特にチップなど、製造プロセスが単純な燃料は、原料の含水率や異物混入などにより品質がばらつきやすく、燃焼機器のトラブルにつながる可能性もあります。品質基準の遵守が重要です。
地域における固形バイオ燃料の活用事例
固形バイオ燃料は、その形状や供給体制に応じて様々な施設で利用されています。
- 公共施設での熱利用: 役場庁舎、学校、温浴施設、体育館などで、灯油や重油ボイラーの代わりに木質チップボイラーやペレットボイラーを導入し、冷暖房や給湯に利用する事例が多く見られます。これにより、燃料費の削減や地域資源の活用を同時に実現しています。
- 産業施設での熱利用: 工場や農業ハウス(園芸施設)などで、プロセス加熱や暖房に固形バイオ燃料ボイラーが導入されています。特に製材所や木材加工場など、自社で木質残渣を発生させる事業所では、燃料費を大幅に削減できる可能性があります。
- 一般家庭での暖房: 木質ペレットストーブは、設置が比較的容易で操作性も高いため、一般家庭での暖房機器として普及が進んでいます。灯油ストーブからの切り替えにより、燃料費削減と地域資源の活用を両立できます。
- 地域熱供給: 特定のエリア(住宅地、公共施設群など)に集中的に熱を供給するシステムにおいて、大型の固形バイオ燃料ボイラーが熱源として利用されています。
これらの事例では、地域の森林組合や農業協同組合、第三セクターなどが原料供給から燃料製造、販売までを担うケースや、民間企業が事業主体となるケースなど、様々な事業形態が見られます。
導入検討にあたってのポイント
地域で固形バイオ燃料の導入を検討する際には、以下の点を考慮することが大切です。
- 地域資源の賦存量と種類: 地域内にどの種類のバイオマス資源が、どれくらいの量存在するのかを把握することが第一歩です。安定供給可能な資源量と、その資源に適した固形燃料の形態を検討します。
- (地域資源量の調査方法や評価については、別途記事を参照いただくこともご検討ください。)
- 需要側の状況: 燃料を「誰が」「どのように」使うのか、具体的な需要(熱需要、電力需要など)を把握することが重要です。公共施設や産業施設のボイラー転換、一般家庭への普及など、ターゲットに応じた供給体制や燃料の種類を検討します。
- 製造・供給体制の構築: 地域内で燃料を製造する場合、製造設備の規模や設置場所、原料の収集・運搬ルート、製品の保管・配送方法などを計画する必要があります。外部から燃料を調達する場合は、安定した供給元を確保します。
- コストと経済性: 原料費、製造費、運搬費、設備の初期投資、運転維持費などを総合的に評価し、化石燃料と比較した経済性を検討します。関連する国の補助金や自治体独自の支援策も活用できるか確認します。
- 環境影響評価: カーボンニュートラル以外の環境負荷(大気汚染物質排出、生態系への影響など)についても考慮が必要です。適切な排出ガス対策や持続可能な森林経営などが重要になります。
まとめ
固形バイオ燃料は、地域の未利用バイオマス資源をエネルギーとして活用するための有効な手段です。ペレット、チップ、ブリケットといった種類があり、それぞれ特徴や適した用途が異なります。地域の実情に合わせて適切な燃料の種類を選び、原料収集から製造、利用までのシステムを構築することで、エネルギーの地産地消や地域経済の活性化に貢献できます。
導入にあたっては、地域資源の状況や需要、コスト、環境影響などを総合的に評価することが重要です。この記事が、皆様の地域におけるバイオエネルギー導入検討の一助となれば幸いです。具体的な計画を進める際には、専門家や実績のある事業者の知見も参考にしながら、慎重な検討を進めてください。